「旅ログ」part3
*キーサン、18歳。見るからに、ちょいワル。
初めて会ったのは2年前。日本語べらべらで、ほとんどネイティブな発音にびっくりした。
「だって、オレ、日本人のトモダチ、いっぱい、いるもん」
でも、それだけじゃないような気がした。もしかして、語学の才能あるのかも?
最初のうちは、「そのipad、いくら?」「スカイプもできるんでしょ」「オレにくれない?って、くれないよねー」とか、うるさくて、テキトーにあしらっていた。
で、昨年10月のある夜。
観光客はまず行かない、地母神のお寺へ初めてお参りに行ったら、、、
もの凄い熱気の中、キーサンが見事なテノールでバジャン(神への讃歌)を歌っているではないか。
「オレ、ちっさい時からやってる。サカナもやってる」
「サカナって?」
「ガンジスの魚に餌をやるんだよ。ずっと続けてるんだ。そういうこと続けてれば、いつか、いいことが返ってくるから。オレ、神様、信じてるから」
そういうキーサンの黒いTシャツの背中には、きっと日本人のトモダチがくれたのだろう、でかでかと「極道一直線」と書いてあった。
今回はなかなかキーサンに会えず、顔見知りの若い子に、「私が来てるって、キーサンに伝えて」と頼んだ。こういうのはアフリカの太鼓と同じで、すぐ伝わる。
でも、3ヶ月ぶりに会ったキーサンは、なんだか無口で淋しそうだった。
「どうしたの、キーサン。ちゃんとお祈りしてる?サカナもやってる?」
「やってるけどさあ。オレの人生、それだけだよ。お祈りとサカナだけ」
「なに言ってるのよ。神様はちゃんと見てるよ、あんたのことを。今に、きっといいことあるよ。日本人のかわいい女の子とトモダチになるとか。で、結婚して、日本に来るとかさ」
「ダメ、ダメ。オレの顔、男はいいの。けど、女の子は怖がるんだよ」